地元で頑張る侍を応援したい
この度ご依頼いただきましたのは、播磨の国で地域活性化のために長年、日々ご尽力されていらっしゃる方から中世の腹当の製作ご依頼でした。
鎧というのは時代と戦い方に応じて変化してきています。平安時代は名乗りを上げて位の高い騎馬武者同士が弓矢で戦う一騎打ちであり、弓矢を防ぐように大きな肩の袖や顔廻りを守るように錣(しころ・首周りを覆う部位)も大きな「大鎧」が中心でした。
しかし、鎌倉時代になると馬上の領主の他に同行する郎党なども徒立ちで集団戦闘するようになり、彼らが着用したのが「腹巻(はらまき)」という胴周りをグルっと保護する胴鎧やお腹周りだけを守る簡易な鎧「腹当(はらあて)」が誕生しました。(お腹からグルっと回して背中合わせで着用する「胴丸(どうまる)」もある)
今回ご依頼はこの「腹当」。参考にしたのは、松浦史料博物館が所蔵している「素懸紅糸威腹当(すがけべにいとおどしはらあて)」。
古くから壱岐・平戸、肥前北部(長崎北部)を領した松浦家が所蔵している逸品です。
素懸け(すがけ)というのは紐を縦にいっぱいに通すのではなく、ある程度距離を置いて通すこと。紅色なので威し糸は本来は赤色だったのでしょうが、時代で薄くなって素地の革の色が見ているように思います。
構造は戦国時代の甲冑よりも胴の横の段が1~2枚少なく、腰回りにつく草摺りというヒラヒラついている部位も前に数枚しかありません。
写真出典:九州国立博物館 https://www.kyuhaku.jp/exhibition/exhibition_s39.html
利用を考えて
ただ、天下の逸品を復元することが弊社の仕事ではありません。ご利用される方の利用用途を踏まえて、可能な限り「使いやすさ」や「耐久性」を踏まえてデザインし、お創りするようにしています。
今回は結構な頻度で体を動かされることが想定され、お一人での着用も考えられることから、例えば、背中の革帯は、実物は両脇から出た革帯をそれぞれの肩にランドセルのように背負い、胸前で留め、その革紐同士を背中で紐でさらに縛る(ずれないように)ようになっていますが、今回はクロスする仕様にして背中での紐結びを不要にしました。また、これは実物もそうだと思いますが、紐で威した桶胴(胴の横長の部品)もしっかり固定せず、蛇腹状にし、体の動きを吸収できるようにしています。
着用すると見栄えは変わる
お客様に納品し、実際に着用していただくと、当然ながら甲冑だけでなく衣装や付属の武具などがすべてきれいに揃っているので、想像以上の見栄えになります。まさに、南北朝で争乱の中で戦っていそうな出で立ちです。